正座

深屈曲の臨床

 膝の深屈曲!人工関節においてもこの深屈曲は、日本家屋の日本文化のなかの生活様式において、ある意味一つの命題のようなところがあります。一般的には深屈曲は人工関節では望まないということが前提であり、あくまで椅子での生活を念頭においています。西洋の生活では洋式トイレですから正座という文化そのものはありませんので、曲がるにこしたことはないですが、それほど生活に支障はないといったところでしょう。しかしながら、日本においてはその限りではないということです。最近では深屈曲に挑むべくコンポーネントが開発されているようなことがHP上でも検索できますが、実際に見たことがありませんのでその真意は推測の域をでません。

さて、今回のテーマはそういったことではなく、どちらかというと保存的治療において深屈曲をどのように獲得するかということになります。ただ余りにも変形が進んでいる場合には、構造的な理由にて限界はあります。
あくまで運動連鎖としての深屈曲の獲得のための考え方になります。

膝というのは不思議なもので、深屈曲しなければいつのまにか正座ができなくなってしまいます。決して怪我をしたとかということではなくても、健常者においても正座をしなければできなくなったしまう、つまり拘縮といっていいのか、むしろ廃用といってもいいのかもしれません。つまり深屈曲というのは、その機会が少なくなればなるほどできなくなってしまうということです。洋式の生活においてもかがんだり、またキャッチャーなどは必ずといっていいほどしゃがみ動作があるので、やはり深屈曲というのはできるほうがいいと言えます。

深屈曲に限らず若者でも伸展制限がある場合が珍しくありません。つまり膝が常時軽度屈曲位にて、立って歩いているような若者です。これこそ別に膝を痛めたわけでもなく、姿勢などの生活習慣によって成せる技となりますので、逆もしかりというわけです。そして屈曲位ではなく過伸展位ということもありますので、これは廃用というよりも誤用ということになるのでしょう。若者の屈曲拘縮も使わないからということではなく、使い方のレンジが不適なのであって、やはり誤用による適応によって屈曲拘縮というよりも伸展制限が生じてしまったと・・・。そしてその伸展制限はやがて膝伸展機構そのものを破綻させる方法に徐々に進行していきます。

ということは、深屈曲もしなければできなくなってしまうということです。では、どういったケースによって起こるのか?片脚が何らかの理由で怪我をしたとします。正座は対で行うものですから、片脚が曲がらなければ当然両膝屈曲が必要な正座は困難となります。つまり正座の機会、深屈曲の機会が失われてしまうのです。和式トイレがなくなっている現状においては尚更です。おそらく使わないからということもありますが、明らかに患側の屈曲ができないというイメージが、転写してしまう可能性も否定できません。全てではありませんが何パーセントかはその因子が影響を及ぼしているものと思われます。そして、その深屈曲の方法がわからないという事態になってしまうのかもしれません。しかしながら膝を単に曲げるということ、そのものを忘れるということがあるのでしょうか?私は膝関節障害患者の後段動作というテーマにて研究をしていたことがあります。その折に不思議な現象として、例えば走って運動もしているにも関わらず、なんと階段の降り動作だけが上手くできない、という事例に出くわすことがありました。そして膝関節障害の患者さんを実際の降り動作障害についてカウントしていくと、少なくない頻度にてその現象が見られるということがわかりました。つまり降り動作の障害とは、一足一段にトントントンと降りていけないということです。このように階段の降り動作というのは、自然な環境の中での必要な動作というよりも、明らかに人工的な階段という規則的な連続性をもった段差を作り出したからこそ獲得したスキルであったと思うのです。つまり降り動作とは特別なトレーニングがされなければ、歩いて走るという動作とは同列には扱えないということです。
 そういった意味においても、本当は立つ、歩く、座る、といった三大基本動作も長い歳月のなかで獲得していったスキルであることは間違いありません。そして走るという動作は、まさに進化の極みというべきものなのでしょう。我々が、いや世界中の人が、脚が速い!ということにおいて、誰もが一度は憧憬の念を抱いたことだと思います。運動会や体育祭にて速く走れる人はヒーローですよね。競うということにおいても、まずは走るということが基本です。徒競走ですから。そしてこれほどまでにランニング愛好家が増えて、とんでもない距離を走るマラソンが当たり前のように開催され、そして完走している現状をみると、DNAのなせる技と言えます。つまり数百万年前から人間が長い年月をかけて進化させてきたその結晶が走るということ、それが100mという競技なのでしょう。1/100秒を縮めるその価値を全世界の人がわかっています。その凄さを皆が分かっています。よって現代は体力が低下している、フィジカルが弱くなっているということの危機感!そのことを本能的に感じ取り、我々はランングという、ある意味やらなくてもいいことを楽しんでやっているのかもしれません。本当は人間は根っこの部分では走ることが好きなんでしょう。誰もがその素養を持っていて、何故ならばそれがDNAだからです。それが脚が遅いからということで、後天的に嫌気がさしていることはあるでしょう。

 さて話を戻しますと、深屈曲ですが、片脚・膝を怪我をしてそのままにしておくと、可動域に制限が生じ曲げることができなくなってしまいます。しかし健側は関節に問題があるわけでもない、筋力が低下したり萎縮しているわけでもない。それなのに、深屈曲ができなくなる。
 そうすると、膝を深く曲げるというメカニズムがあるのだろうということになります。
転がりと滑り、そして大腿骨の内側顆と外側顆の大きさと、曲率半径の違いにより回旋要素が加わってきます。関節可動域を改善するための徒手的な操作としては、この関節の構造的な違いと転がりと滑りを念頭において、角度毎に微妙な操作を加えていきます。また靭帯損傷などがある場合、instabilityがありますので、そこは抑制するように操作を加えます。具体的にはACL損傷がある場合、脛骨の外側顆が前方に出やすくなります(ALRI)。曲げ込んでいくと下腿の筋群による圧迫力が加わるため、外側顆は前方に飛び出てきやすくなります。
 徒手的には、その外側顆が出ないように曲げ込んでいく必要があるわけです。また膝蓋骨の、滑りと大腿直筋の伸張性を促しながらの屈曲も必要です。しかしながら、これは、あくまで仰向けに寝ていて徒手的に曲げていく操作の時の心得であり、正座となるとまた別問題になります。ある程度は徒手的操作の理論が通用しますが、深屈曲の自動でのアクテイビティについては、少し趣向を変えなければいけません。つまりどこを意識してもらうか!ということです。
 
 実は他動的にまげるという操作と、正座の間に予備的なエクササイズがあります。これは、しゃがみこみ動作のプレパレーション、準備動作とも言えます。
 
深屈曲の準備動作
 仰向けにて足底を床面につける、いわゆる膝屈曲位での仰向け肢位をとります。そこから他動的に膝屈曲する場合には、下腿を近づけることになりますが、プレパレーションではボディを下腿に近づけていきます。よって、臀部が多少床面より浮きながらの動作になります。あくまで能動的に動いてもらいますが、ここでセラピストがアシストを加えていきます。
 ①ハムストリングス:大腿下部中央の繊維を意識してまげる。正座や深屈曲をしていくとわかりますが、自覚的にハムストリングスの下方部、つまり膝窩に近い繊維、それも腱ではなく中央の筋腹の末梢部とでもいうのでしょうか、その辺りを意識するとまげ込みやすくなります。つまり正座とは下腿を大腿に近づける動作ではなく、下腿に大腿が近づいていくアクティビティになります。よって本来ならば限りなく膝関節屈曲においては抑制的、つまり大腿四頭筋が伸張性にコントロールしながら正座を完了していきます。しかしながら、あらゆる関節全てに言えるのですが、一見他動的に見えても、その関節運動の軌道を誘導するために主動作筋は必ず作用しなければならないという法則があります。それは股関節屈曲他動運動においても、腸腰筋のガイドが必ず必要なように。

 ②下腿近位前縁部による前方プッシュ力
 少しわかりにく表現ですが、ようは脛の脛骨粗面に近い部位にて床面を押しながら正座動作は完了していきます。よってプレパレーションにおいても先ほどのハムストリングスによる意識とともに、脛骨前縁近位を押すように抵抗を加えながら、ボディを下腿に近づけていく深屈曲の準備動作を誘導していきます。おそらくこの脛骨近位を押すことで正座においては、より大腿前面の筋群の伸張性が発揮しやすくなるのでしょ

 ③膝伸展機構の誘導
 膝蓋骨~大腿直筋の伸張性は深屈曲に拮抗筋であり、動きの抑制をしながらもコントロールする重要な機構となります。筋肉というのは解しておけば、どの関節可動域においても有効に関節運動の誘導とコントローラーとして働くかと言われると、必ずしもそうではなく可動域毎に関節周囲筋全体の融合性とコンビネーションを整えていく必要があります。特に廃用や長期にわたる機能障害がある場合においては、尚更不可欠となります。よってリラックスした肢位にて解せば途端に動きやすくなるかと言われると、ミドルレンジではそうですが、深屈曲となるとまた別問題になってきます。つまり深屈曲に限らず関節運動のターミナルにおいては、筋肉だけでなく腱や筋膜、そして関節を構成している骨や靭帯、関節包においても多大なメカニカルストレスがかかってくるからです。
 
そして正座動作へ
 準備動作がある程度できるようになると、いよいよ正座になります。肢位が違うだけで膝の屈曲そのものは変わらないのですが、この肢位の違いこそが重要なポイントなのです。つまり重力線に対して下腿がどのような位置関係にあるかです。仰向けでの屈曲と正座における違いは、下腿が重力線に対して十字の関係になるのが正座となります。仰向けの他動的操作においては刻々と股関節屈曲も加わるため床面に水平から直角(重力線)からさらに股関節屈曲も深くなってくるに従い水平に近くなってきます。
 準備動作においては、この下腿がほぼ重力線に沿った肢位を保ちながらの深屈曲動作となります。
正座は床面に対して下腿が水平位であり続けながら、さらに大腿が下腿に近づいていくことになります。
 このときにプレパレーションでも説明した、ハムストリングスの近位と脛骨の前縁にて床面を押す操作を自ら加えていきます。また膝伸展機構の伸張性も必要ですので、大腿をより床面にたいして水平位を保てるように脛骨粗面のあたりにできる床面との隙間を埋める、もしくは少しリフトしてあげるとまげやすくなります。このような一連の操作をハンズオンや指示だけでなく、アイテムを活用して能動的にできるように指導できるといいでしょう。



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