運動連鎖道場症例検討会part4 報告テーマ「
急性期への運動連鎖アプローチ」
平成21年2月14日(土曜日)世間はバレンタインデーの真っただ中、我らが運動連鎖道場生および有志ある仲間が集い第四回勉強会が町田市文化交流センター 会議室「サルビア」にてPM6時~開催されました。会場に向かいながら車の出が多いような印象を持ちながらの道中でした。今回の発表者は、以下の三名でした。
発表者 下村武貴さん 「急性期の運動連鎖アプローチ」(道場一期生)
膝関節を内側の大腿脛骨関節と外側の脛腓関節に分けて関節内圧へのアプローチを紹介し、マグレインテープやインソールにて腫れをコントロールする方法を披露してくれました。
牛山浅美さん 「複合的理学療法の実際」 (看護師)
最近、講習会も増えていますリンパ浮腫に対するアプローチである複合的理学療法(CPT) について御紹介いただきました。理学療法ではよく使う物療機器であるメドマー、ハドマーは表層の水分はある程度ドレナージしてくれますが、深層の蛋白質は残存してしまい硬くなってしまう可能性があるとのことでした。医療徒手リンパドレナージが適応の病態も多々あるようですので注意が必要ですね。
鈴木敦生さん 「急性期のアプローチ」 (道場一期生)
所属している竹田整形外科クリニックでは、加圧トレーニングを臨床の場にて応用しているようで、患者さんの反応は上々なようです。運動連鎖アプローチとして筋膜の流れや関節内圧の評価に基づいて、マグレインテープやbodyworkにてアプローチしROMの改善などの効果がみられました。
テーマの急性期というのが参加者の興味を引いたのか、申込時から相当の応募者が殺到したようです。それだけに急性期のリハビリにおいて何かいい方法はないかと臨床の場で模索しているセラピストが多いということなのかもしれません。病院のなかでの急性期といえば、脳卒中の発症直後、脳外・整形外科手術後の患者ということになります。脳卒中の急性期の場合は、廃用防止や最近の早期リハビリなどの機能的な訓練という観点を除いては、グリセオールなどの点滴にて治療ですので、我々PTが特別その急性期の脳そのものにアプローチしてひかせることは難しいと思われます。 整形外科の急性期、おそらく手術後が圧倒的に多いと思われますが、これはRICE処置という具体的な急性期に対するアプローチが我々のツールにて行うことができます。外傷などの急性期はほとんどが診察にて対処されますので、リハビリにまでは回ってこないのが現状だと思われます。急性腰痛つまりぎっくり腰においても、基本的には安静ですのでリハビリにて対処する機会はないと思われます。 リハビリで最も難渋する急性期の腫れはおそらく膝ではないでしょうか?手術後の膝の炎症によりリハビリが開始できない、もしくは進められない症例は多聞に及びます。現在の期限で区切られたリハビリにおいては、急性期リハビリは1~2週も見れれば回復期に移ってしまいますので、その後の経過はわかりません。回復期も期限がありますのでその後の経過は外来にて繫がない限りは、その後の結末はわかりません。つまり急性期の段階で炎症がひどくリハビリスケジュールが遅れると後々二乗で遅くなっていくように感じます。保存でも観血的な治療においても固定期間はどんどん短くなっています。極端な話ACL損傷術後で伸展制限を設けないでフリーにしている病院もあるぐらいです。
一般的には一昔前は3週間の完全固定でした。しかし最近は半割のギブスにて2周ぐらいの固定がいいところです。半割ですので患肢の筋収縮の状態などを確かめることができますし、CPMにて動かすこともできます。しかしながら、腫れた膝は医学的な対処をしているものの、なかなか引かないことがあります。同じ病態で手術をしているにも関わらず、腫れが残ってしまってリハビリが進められない症例は何が一体違うのか?実は私も総合病院で入院の患者を見ている時に、疑問の一つでした。場合によっては手術後2か月たっても思うようにリハビリができないケースもあります。ここまで引っ張るとさすがに廃用で筋委縮、拘縮がおきてしまい機能的な回復もドンドン遅れていきます。一番大切なことはリハビリというのは、特別な方法を用いることではなくクリティカルパスにて、そのゴールデンタイムにしかるべき対処を確実に行うことで、何事もなかったかのように機能回復していくことなのです。
これは手術後でなくても外来リハビリにおいても同じことです。特にむち打ち損傷などの急性期で来られる症例においては、発症からの時期と運動メニューをリンクさせて進めていかなければ不定愁訴だらけの嫌われる患者に変貌していきます。昔、病院ではむち打ち患者は、愁訴だらけで難渋するため精神的な問題にすげ替えられることも多々ありました。しかしながら、きっちりとその病態を理解し、対処することで治療者としての喜びを見出させてくれる患者に変わってきます。もちろん脳脊髄の漏れによる問題がある場合もありますので、全てをリハビリにて対処できるわけではないとも思いますが・・
さて、前振りが長くなりましたが、下村さんと鈴木さんの発表は同じく膝関節に対するアプローチで腫れが即時的に引いて関節運動が改善したり、痛みの軽減がみられるという報告でした。運動連鎖ツールのなかで特に使えるメソッドとしては、関節内圧の評価ということになります。これはよく覚えていないのですが偶然見つけた生体の反応なのですが、関節の内圧勾配は全身性にコントロールされているんだと考えざるをえない現象があります。どういうことかというと例えば膝であれば患部の腫れは直接触れないことも多いですが、健側にアプローチすると患部の腫れを引かせることができるというようなことです。にわか信じられないことかもしれませんが、実際関節の圧縮と牽引を徒手的に操作すると左右でまるで対になっているかのように反応します。関節の周りには筋肉が取り巻いていますから、筋緊張をコントロールしているということも考えられますが、生体にはある一定の圧の総和があり、どこかの圧勾配が高くなると他の部位にて圧を低下させたりしながらバランスをとっているのかもしれません。しかし、外傷や手術にてその圧勾配の調整バランス能を超えてしまうと腫れがなかなか引かないというようなことになるものと思われます。ただし、もともと生体バランスつまりアライメント不良などにより、関節圧が左右上下の関係で崩れていあ場合は、一旦腫れなどが生じてしまうと治りが悪いということになるのでしょう。実際にむち打ちや、腰痛などもそうですが基礎体力が低下していたり、マルアライメントが顕著であるというような背景を有していると、怪我をしても治りが悪いのは明らかです。
腫れに対する運動連鎖アプローチで最も得意とするのは整形外科疾患の急性期の腫れだと思われます。リンパ浮腫や内科的な問題が内在している腫れについては、もちろんアライメントや機能的なアプローチも大切ですが、直接リンパ循環を促してあげる方法が一番の適応だと思われます。イメージとしてはホースの中の水を流すのに直接水圧を高くしたりホースを絞ったりという方法と、さらにホースを取り巻いている土管などの歪や曲りを正してあげることで、水の流れを促しあげるというような方法も考えられます。神経においても同じです。ナーヴストレッチにて直接神経をストレッチするか、神経根レベルでの圧迫を除いてあげるか、マッケンジーにより椎間板の髄核連動を促すか、中枢神経である脳に対して調整することで末梢の働きを良くするか・・頭蓋仙骨療法にて脳脊髄液の環流を促すことで、神経に栄養を与えるか・・生体のアライメントを整えることで神経の歪を結果的に正してあげるか・・どの病態がメインになっているかによって著効を示すアプローチは変わってきます。
腫れや炎症があるからといって手をこまねいていては、機能的な回復はドンドン遅れていきます。軟部組織の治癒過程からいっても最短3日間、長くても2~3週もあれば急性期の炎症は治まらなければいけません。原因がよくわからない説明がつかない痛みや腫れなどは、むしろリハビリの適応であり、理学療法機能診断学というものがあれば、まさに診療ブースでセラピストが評価しその原因を説明できるようになることが重要なのです。
この急性期のリハビリは今後もテーマとして取り上げていければと思います。夏の8月には新潟で運動連鎖合宿をしますが、そこでは具体的な急性期の腫れに対するアプローチを提示していきたいと思います。興味のある方はぜひご参加ください。